冬山になければ命取り!「アイゼン」のタイプ別おすすめと選び方

今度雪山に初めて行くことになったんですが、「アイゼン忘れないように」って言われました。アイゼンってなんですか?
アイゼンは靴に付けるスパイクで、冬山では必須アイテムの1つだ。「クランポン」とも言う。

一口にアイゼンと言っても、やっぱりいろいろ種類があるんですよね?
そうだな。見た目ですぐに分かる「爪の数」や、金具を引っ掛けるタイプかストラップで締め上げるタイプかの「装着方法」、それと「素材」などを元に選ぶことになる。
じゃあ、それぞれ解説よろしくお願いしまーす。

爪の数で選ぶ

爪の数は多いもので12本、少ないもので4本まで様々だ。
やっぱり多い方がいいのかな?
一概にそうとも言えない。もちろん登山レベルに比例して爪の数が多いものが求められるのは確かだが、それがハイキングレベルの山でも使えるかというとそうとも言えない。
「大は小を兼ねる」ではないということですね。

爪が10本以上

まずは12本~10本の爪があるタイプ。ピッケルを使うような本格的な登山に使う。
「雪山登山」と聞いてパッと思い浮かぶタイプのレベルですね。

このタイプの一番の特徴はつま先に飛び出した爪が付いていることだ。
見るからにガッチリ食いつきそうですね。逆にそうじゃないタイプがあるんですか?
6本や4本の少ない爪だと、つま先やカカトに爪がなく、靴の中心部分にしかないものが多いな。

え、真ん中だけ?歩く時って普通カカトからつま先にかけて地面に足をつけるから、なんか歩きにくそうですね。
歩きにくさに関してはどのタイプも歩きにくい、というか、アイゼン用の歩き方が前提になる。
なるほど・・・どういう歩き方になるんですか。
爪の数によって変わってくるが、まずこの12~10本タイプでは、つま先から地面に着地するようなイメージになる。
このつま先の爪を突き刺すイメージですか? だから、こんなに前に飛び出してるのかぁ。
このタイプは滑落防止というアイゼンに求められる性能は最も高い。
さっき「大は小を兼ねない」って話が出ましたけど、このタイプのデメリットって何ですか?
とにかく頑丈に作られているので、重い。大体1.5kgぐらいの重りを足につけていると考えるといいだろう。
1.5kg!それは重そうですね。
そしてこのタイプは装着できる登山靴が限られる。「装着方式」の内容にもかかってくるが、前後の金具で固定するタイプなら、冬の登山専用の登山靴で、つま先とカカトに「コバ」という出っ張りがあるものでないといけない。
私の靴にはついてないです…。
その靴は冬山専用のものじゃないからな。そしてこの冬山専用の靴というのは防寒性を優先しているから基本的に重い。
ということはアイゼンの1.5kgに加えて登山靴自体の重さもかかってくるってことですか…。

重さに慣れないと疲れやすくなる。人の足は疲れてくると両足がくっつきがちになるんだ。そこへ、このタイプのように外に爪が張り出してるアイゼンを履いていると、自分の足、にアイゼンを引っ掛けるトラブルが起こる。
ただでさえ不安定な雪山で足を引っ掛けるのは怖いですね。
そういった意味で、12~10本爪のアイゼンは上級者向けのアイテムだ。性能は高いが、特性をわかった上で使わないとかえって危険だと言える。
このタイプだとどんなものがおすすめですか?
「グリベル」というブランドが定番だ。他に「ブラックダイアモンド」なども信頼できる。

爪が10本未満のタイプ

爪が少ないタイプの特徴は多いタイプの逆ってことになるんですかね?
そうだな。メリットとしてはどんな登山靴にも装着可能、軽くコンパクトなので持ち運びしやすい、価格も安い、デメリットはグリップ力が弱いということだ。
おすすめモデルは?
まず、「カンプ」の「アイスマスター」。
あれ?爪10本ありますよ?
爪の本数は10本なんだが、これは「チェーンスパイク」という構造で、本格的なアイゼンのような頑丈なフレームがない。分類的には「軽アイゼン」に分類されるんだ。
そういえば、見た目が全然違いますね。でもこれぺったんこになるから持ち運びはしやすそうですね。
それが軽アイゼンのメリットだな。このアイスマスターのいいところはチェーンスパイクには珍しい10本爪という点と、アッパーを締め付けて固定するストラップがついている点だ。軽アイゼンは構造上、固定する力が弱いので、歩いているとどうしてもズレてくる。このストラップが果たす役割は大きい。
価格は6000円ぐらいなんですね。ちゃんとしたものでもこのくらいの値段から買えるんだ。
中国製の2000~3000円で買えるものもあるが、費用対効果を考えるとアイゼンについては中国製品はあまりおすすめできないな。
10本爪で挙げられてた「グリベル」は軽アイゼンは出してないんですか?
一応ある。「スパイダー」という軽アイゼンだ。
これはダメなんですか?
ダメというわけではないが、見ての通り、スパイクが真ん中に集中しているんだ。やはり端にスパイクがある方が効果は高い。価格もそんなに変わらないので、これを買うならアイスマスターの方を勧めたい。
一緒に行く人たちはみんなモンベルのチェーンスパイクでした。
それはおそらく「スノースパイク6」というモデルだろう。
モンベル(mont-bell) スノースパイク6 ブラック 1129619 BK 1129619
Posted with Amakuri
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モンベル(mont-bell)
販売価格 ¥5,292
(2017年1月14日15時34分時点の価格)
ああ、これこれ。これはどうなんですか?
登山靴全体をストラップで締め付ける構造なので、信頼感はあるんだが、肝心の締め付けを維持する構造が弱く、緩みやすいのが欠点だ。低山で圧倒的なシェアを誇るモンベルのブランドイメージから知名度はおそらく一番高く、山で一番目にするんだが、これも価格があまり変わらないことを考えるとやはりアイスマスターの方がおすすめにはなるな。一応、別記事「アイゼン モンベル スノースパイク6」に詳細な解説がある。

12本以上の爪

Amazonとか見てると14本とか19本とかやたら爪が多いアイゼンがありますが・・・。
それは爪が多いだけの粗悪品だ。雪や凍結がない低山で、アイゼンが不要なレベルで使う前提ならいいが、「爪の数が多い=本格登山用」などと考えると命取りになるので十分注意するように。
聞いたことのないメーカーは注意したほうが良さそうですね・・・。

取り付け方法で選ぶ

アイゼンには取り付け方で、タイプが大きく3つにわけられる。

ワンタッチタイプ

まずはワンタッチタイプ。その名の通り、取り付けに一番時間がかからないのがこのタイプだ。
じゃあ、それでいいじゃないですか。
爪の本数の項目でも言ったが、取り付けられる登山靴が限られるのがデメリットだ。さらに対応している靴はアイゼンを取り付けることを前提とした作り、つまり冬山登山専用の靴がほとんどだ。
かなり限定されますね。冬山専用登山靴なんて存在さえ知らなかったです…。
対応範囲を絞り込む代わりに、その範囲においてはこの上ない性能が期待できる。
たぶん私がお世話になることはなさそうですが、このタイプにはどんなものがあるんですか?
まぁグリベルだな。
またかよ。グリベルのステマかな?
取り付け方式と爪の数はどちらも登山のレベルで分けられるから大体同じ商品が該当するんだ。基本的に上級者向けのアイゼンはグリベル一沢みたいなところはある。あとはブラックダイヤモンドとペツル。
グリベルなんて今日初めて聞いたのに、もう今日の話、グリベルっていう単語しか頭に残ってないですよ。
また、ワンタッチということはそれだけ形が固定されているということの裏返しでもある。
どういうことですか?
靴の形が合ってないと、どんなにがんばってもうまくフィットせず、本来の性能を発揮できない。
え、そんなことあるんですか?
ある。だから、このタイプのアイゼンを買うときは必ず、合わせる登山靴を店頭に持っていって試着することを強くおすすめしたい。間違っても通販なんかで買ってはダメだ。
グリベル以外には?
これもさっき紹介したが、ブラックダイヤモンドの「セラック プロ」がライバルになる。大抵この2つのどっちを選ぶか、という話になるのがお約束だ。
どうやって選ぶんですか?
大きな違いは材質だ。グリベルはクロスモリブデン、通称「クロモリ」と言われる鋼鉄でできている。ブラックダイヤモンドはステンレス製だ。
クロモリってあれですよね、死んでも歩道走らない勢意識高い系チャリダーの会話で1分あたり10回ぐらいのペースで出てくるやつですよね。

チャリダーディスりたいだけだろお前。
だってあの人たち、完全に「俺は車だ」って思ってますやん。せいぜい時速40kmしか出ないくせに。原付きより遅いのに。
仕方ないだろ。法律がそう決めたんだから…。
いや! チャリダーは法律がそう決める前から意識高いところ持って行ってた! 大体なんなんですか、あのぴっちりユニフォームは! 広告収入入るわけでもないくせに自分からモンスターの企業ロゴ貼っちゃったりなんかしちゃったりなんかしちゃっったりなんかしちゃったりして。
わかったわかった。話戻すぞ。
ていうかチャリダーって何?
お前が言い出したんだろうが!
そんなチャリダーのテンションをウザいくらいアゲアゲにするクロモリなら、きっとどこにでもありそうなステンレスより価値が高いんでしょうね。
確かにステンレスは珍しいわけではないが、ステンレスならではの長所はある。それはサビに強いことだ。

いや、まぁ・・・そりゃそうですけど・・・なんか普通っていうか、意外性がいまいち・・・。
アイゼンは雪の中を歩く。つまり濡れるのが前提だ。雪の元は雨水、雨水は酸性、つまり金属をサビさせやすいんだ。
なるほど・・・それを聞くとサビに強いのはありがたいかも・・・。
サビ防止と言っても、使ったあとにしっかり拭いたり乾かしたりすればいいだけだから大した手間ではないと思うんだ、買う前はな。が、実際に使ってみると、そのひと手間が意外と面倒になってくるものだ。
雪山はただでさえ体力使い果たしそうですもんね…帰った後にメンテナンスなんてあまり考えたくないかも…。
さっき、グリベルとブラックダイヤモンドの他にペツルっていうメーカーもあるって言ってましたけど・・・。
そうだな。ペツルは「バサック」というモデルが代表的だ。
これの良さは?
ワンタッチタイプとセミワンタッチタイプを組み替えられることだな。
えー、すごい! めっちゃオトクじゃないですか!
まぁ…レバー部分に通すストラップがやけに低い位置で通しにくいなど、微妙な仕様はあるが、基本的な性能はなんら問題ないから、これも選択肢として考えておきたい。

セミワンタッチタイプ

次はセミワンタッチタイプを説明しよう。
「セミ」ってことはさっきのワンタッチタイプほど取り付けは簡単じゃないってことですか?
そうだ。前も後ろもフレームで固定するワンタッチタイプに対して、セミワンタッチタイプはフレームで固定するのは前後どちらか一方のみ、もう一方はストラップを締め上げて固定する。
ストラップで締めるというのはフレームで固定するのに比べるとやっぱり弱い感じはしますね…。
そうとも言い切れない。フレームは固いが、ストラップは柔らかい、裏を返せば、フレームは柔軟性がなく、ストラップは柔軟性がある。
つまりどういうことだってばよ。
ワンタッチ式のガチガチのフレームはジャストフィットすればこの上ない性能を期待できるが、ちょっとしたズレでハズレやすくなるなど、条件がシビアだ。一方セミワンタッチ式のストラップはちょっとしたズレを吸収できる柔軟性がある。
ワンタッチ式が100点か0点かはっきりしていて、セミワンタッチ式は常に80点みたいな感じですか?
まぁそんなところだ。そうは言っても、セミワンタッチ式もやはり専用の登山靴が必要だ。
片方がフレームってことはこれも登山靴にコバが必要なんですね。
そうだな。あと、ソールが固くないとダメだ。グニャグニャ曲がっていてはいくらセミワンタッチ式の柔軟性をもってしてもカバーできない。
ソールが固い登山靴はやっぱり本格用途だもんなー。
まぁコバがあるような登山靴は基本的にこのレベルのアイゼンを付ける前提で作られているから必然的にソールも硬いものが使われている傾向があるけどな。
セミワンタッチタイプにはどんなモデルがあるんですか?
まずはグリベルのニューマチックだな。
はい来たー、グリベル来たよーグリベル。グリベルキタコレですよー、いや、むしろktkrですよー
黙れ小僧
でもこれ、さっきのグリベルと変わらないように見えますが・・・
ワンタッチタイプで紹介した「オーマチック」は前が鉄のフレームになっていただろ。ニューマチックは樹脂製の柔軟性があるパーツを使っている。
あ、ホントだ。だから靴の選択の幅が広がるんですね。
その分、しっかりストラップを締めないと緩みやすいということにもなるがな。ただ、対応できる登山靴、対応できる環境はこのセミワンタッチタイプが一番広いかもしれない。実際、モデルのラインナップで一番種類が多いのがこのセミワンタッチタイプだ。
他には?
さっき紹介したペツルのバサックはこっちにも入る。
ワンタッチタイプとセミワンタッチを組み替えられるやつですね。
あとはブラックダイヤモンドの「セラック クリップ」。
これもさっきのワンタッチタイプと同じように見えますが…。
グリベルと同様先端の作りが違うのと、名前が違う。ブラックダイヤモンドはモデル名と別にタイプ別の名称がある。ワンタッチタイプは「プロ」、セミワンタッチタイプは「クリップ」、ストラップタイプは「ストラップ」となっている。
なるほど、同じセラックでもプロとクリップで分けられてるんですね。このモデルの特徴は?
刃がステンレス製なのが特徴だ。
サビに強いということですね。
あと、グリベルに比べて刃が多少長いから、食いつきはこっちの方がいい。ただ、その分歩きにくかったり、引っ掛けるリスクは高まるので、自分の体力や登る山を考えて選ぶといいだろう。

ストラップタイプ

最後にストラップタイプだ。
ストラップ式はライト雪山向けだから、さすがにグリベルはないよね。
ある。ニュークラシックがストラップタイプだ。
やっぱりあるんだ・・・
なんで残念そうなんだ…グリベルは別に上級者御用達というわけじゃないぞ。
ニュークラシックって新しいのか古いのかよくわからない名前ですね。
そうだな。
今の会話必要ありましたかね?
ないな。
取り付け方法が違うのはわかりますが、他に何か違いはあるんですか?
ワンタッチタイプに比べて刃が短くされている。食いつきは弱くなるが、浅い雪だとこっちのほうが使いやすいし、より自然に歩ける。
ブラックダイヤモンドとかペツルもストラップタイプあるんですか?
ブラックダイヤモンドは各モデルに「プロ」「セラック」「ストラップ」が用意されているから「ストラップ」を選べばOKだ。ペツルはストラップタイプはないな。

アイゼンの選び方

やっとアイゼンの種類の説明が終わった~ヽ(´ー`)ノ
次はそれをどう選ぶか、だ。このままだと選択肢が増えて迷うだけだからな。
最初は刃が多いものが上級者、ワンタッチタイプが上級者、みたいに考えてましたけど、話聞いてるとそうでもないような気がしてきました。
そうだな。爪が少ないことで食いつきが悪いというデメリットがある。足を踏み外したり滑らせる危険性が高い初心者こそしっかりした刃が必要と考えることもできる。
ワンタッチタイプも取り付けがワンタッチという点はそれこそ初心者向けに思えますよね。
ストラップで締めるというのは誰にでもできそうだが、“きちんと”締められるかどうかとなると話が変わってくる。初心者に適切なストラップ締め上げはまぁ無理だろうな。
そうなると取り付け方式や爪の本数だけでは一概に選べないことになりますが…。
基本は「どんな山に行くのか」で決めるのが良いとされている。

標高やその山がどんな地域にあるか、とかですか?
それもそうだが、あまりいろいろ総合的に考えるとかえって判断が難しくなる。まずは雪のレベルで判断するといい。
なるほど。山全体が雪に覆われている場合もあれば、まばらに積もっている場合もありますね。
さらに山全体が雪に覆われている場合には積雪量で分けることができる。

たくさん積もっていると12本爪とか?
まぁそうなんだが、積もるレベルも数cm程度から、上は数メートルまで幅が広い。ひざまで埋まるような積雪レベルになるとそもそもアイゼンでは対応できない。
え、じゃあどうすれば…。
そのレベルになるとアイゼンではなく「ワカン」「スノーシュー」といった道具が必要になってくる。
忍者が池を渡るときに使う水グモみたいですね…。
理屈は同じだ。このレベルになると雪が柔らかいため、雪に食いつくというより雪に埋まらないようにすることが重要になってくる。
じゃあ、膝以上の雪はワカン、スノーシュー、それ以下がアイゼンってことですね。
そうだな。まず山全面が雪に覆われている前提の場合、10、12本爪、ワンタッチ、セミワンタッチのアイゼンがいいだろう。
逆に爪の本数が少ないタイプの使い所がわかりにくいかも…全部12本爪で良さそうですよね。
いや、春先の残雪など雪がまばらな場合は、12本爪のようなしっかりしたアイゼンはかえって危ない。土の地面はさほど問題はないが、岩を歩く場合などアイゼンではグリップが効かず非常に危険だ。そういう場合に6本爪のアイゼンが便利になってくる。
4本爪は?
4本爪やチェーンスパイクは「基本的には使わないことを想定した山」で、もしかしたら凍ってたり、雪が積もっているかも、といったときに便利だ。このタイプはコンパクトにまとまり、重量も比較的軽いから、使わない前提でもとりあえずザックに入れておくことがそれほど苦にならない。
なるほど~。そうなると私が今度行く山は6本爪が良さそうな気がします。
単純に上級者向けのものを選ぶのではなく、行こうとしている山の地面の状態や傾斜の状態を想像して、そのアイゼンで歩くことをリアルにイメージすることが大事だ。そうすると自然にどれを選ぶべきか絞られてくるだろう。
わかりました!
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公開日:2018.11.24
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